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夜光虫

雑記他 拙い読み物などを載せてあります。

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犬になるー13


 
お預けinu.png
 
 
獅堂三里、17才。
通称会長・・・その彼が此処最近少しばかり、優欝なのは
目の前で、なんとも締まりの無い顔で、へらへら笑っているこいつのせい。
 
村澤憲吾、同じく17才。
三里に一発やらせろと言って 『犬の方がマシ』 そう言われ、
三里の犬目指して頑張っているが、なかなか思うように行かない。
 
それでも、体育祭の時から少しだけ三里が優しく?なったような気がして
村澤は、すこぶる機嫌が良かった。
今日だって三里の方から、一緒に帰ろう・・・なんてお誘いを受けて
これを喜ばずして、何を喜ぶ。
 
俺にははっきり判った。 俺は、三里の事が好きなんだ。
そう、女といちゃついているより、三里といる方が楽しい・・・わくわくする。
時々、変に意識する事もあるけど・・・やっぱ、男同士の友情だよな・・・
 
無理矢理、トンチンカンな方向に、勘違いして、
自分が、実は思いっきり純情で、その上鈍い事に気付かない。
 
「なんか、雨でも降ってきそうだね、お前、傘持って来ているの」
「いや、朝出てくる時は晴れていたから」
「そう・・・途中で降り出すかも知れないね」
 
確かに、空は幾重にも重なった灰色の雲が、所々色を濃くして広がりつつある。
村澤の上機嫌と反比例するような今日の空は、
三里には、自分の心に比例しているように思えた。
 
獅堂三里は、入学以来ずっとトップをキープしてきていた。
それも、毎回満点・・・こんな奴がどうして、私立の進学校に進まなかったのか。
やはり上を目指すには、授業の内容と進度は大きな要素になる。
その為にみんな必死になって、今の楽しみを切り捨てて、
勉強だけに、時間を費やしているのだ。
それが、将来の社会的地位や、生活のゆとりに変わると信じて。
此処で失ったものは、これから先の長い人生に比べたら、微々たる時間でしか無い。
そう信じて、歪で不完全ものに変わっていく。
 
「獅堂は、なんで私立に行かなかったんだ? お前の頭なら・・・」
村澤が、三里の横顔に問いかける。

「金をかけようが、どんなに勉強しようが・・・本人次第だよ。
失くしたものの代わりを、何かで埋めるなんて事は、けっして出来ない。
失くしたものは、失ったままで、そこには穴が開いているだけなんだ。
だから、僕は失いたく無いんだ・・・今のこの時間を。
失わずに得るのは難しいけどその方がいい・・・難しくても失うよりは、ずっと良いよ」

まるで、何かをなくした事があるような・・・そんな気がするのは、気のせいか?
ふと、そんな事を考えてしまうような、三里の横顔は
垂れ込めた雲に重なるように、重く沈んで見えた。
 
「お前、俺に言った事忘れて無いよな、俺が一教科でもお前を抜いたら・・・」

「忘れて無いよ・・・言っただろう、僕はいつだって本気だって。
もし、お前にトップを譲る事があったら、僕を好きにして良い
但し、心は動かない・・・絶対に」

「三里、お前・・・」

「さてと、久々に試験勉強でもするかな・・・なんせ僕の尻がかかっているからね。
村澤君も頑張って、楽しみにしてるよ」
 
三里はヒラヒラと手を振る・・・なぜヒラヒラなのか分からないが、
それは細く華奢な三里の手に、とても良く似合う仕草だと思う。
村澤は返事もせず、蝶のように優雅に舞うその手に、
いつか見た、鉛色をした北の空に舞う白鳥に代る一匹の蝶を思った。
 
まともに勉強した処で、今の村澤には三里を抜く事は不可能だと思われた。
あいつは多分、文武に編入しても トップに君臨するだろう。
だから・・・あいつの一番不得意な科目、それで抜くしか無い。

今までに満点を逃した教科は 嘘! たった二度だけ?
それも選択教科・・・。 これじゃ、俺がいくら頑張っても抜く事は出来ない、
せいぜい並ぶのが関の山、どうする・・・どうすればあいつを抜ける。

煩悩にひたすら身を置いていた村澤が、それ以外で頭を悩ませるのは久しぶりで、
 はぁ~ 俺は、悩みを増やしに此処へ転校して来たようなもんだ。
 
試験前は部活も生徒会活動も無い、
村澤は久しぶりに・・・本当に何ヶ月かぶりに、机に向かったような気がした。
 
「どう? 試験勉強進んでいる? 」
その言い方がなんとも言えず嫌みったらしく、小馬鹿にしているように聞こえるのは、
俺の気のせいかな、村澤は無意識に嫌~な顔で三里を見上げた。
 
「お前の方こそ、どうなんだよ」

「僕? 僕は、別にいつも通りだよ・・・でも、今回は楽しみ♪」
こいつ・・・やっぱ可愛くねぇ。
 
「おッ 俺だって、結果が楽しみだね」
精一杯の負け惜しみを返して、フンと鼻を鳴らすと、三里は可笑しそうに笑った。
 だから、つい聞いてしまった。
「あれ? いつもの嫌みったらしい笑いはどうしたんだ? 」

「だって、仮にもキスを交わした相手に、そんな態度はしないだろう?」

「えっ? えーっ! それって」
途端に真っ赤になった村澤の耳に、三里はそっと顔を寄せて、
 
「顔、真っ赤だよ・・・純情な村澤君、喜ぶのはまだ早いよ」
そう言うと、カプッ! 今度は耳に噛みつかれ、
 
「イッテェー!」
耳を押さえて顔を向けると、三里は今度こそ最高に嫌味な笑い顔を見せた。
 
「な! なんで噛付くんだよ! お前!!」

「ん? だって楽しいから」

「人に噛み付いて楽しいのかお前は・・・変態!鬼畜!S!」

村澤の抗議もなんのその、三里はジロリと村澤を見上げると・・・見上げると・・・
へぇ~ 睨んでも下からだと、結構可愛く見えるんだ・・・
村澤の内心など、知る由もない三里はとうとうとまくし立てる。
 
「それを言うなら、君だって変態だよ。
男の僕に、やらせろと言ったり挙句にキスしたりするんだから」

ゲッ やっぱりそれかよ・・・。
せっかく少しだけ膨らんだ風船が、プシュ~と萎む音が聞こえた。
 
「あ! あれは、つい・・・」

「ついね、男も女も見境なくさかる君の方が、もっと変態君だと思うよ。
だから、楽しませてよ僕にも、いつか本当のキスをするまではさ」
そんな三里の言葉に、またしても反応する自分が悲しい。

三里と本当のキス?  そこまで思って、 はたと考える。
それまで俺は無事でいられるのだろうか・・・。
こいつに良いように遊ばれて・・・しまいには 三里恐怖症になってしまうのじゃ。
 
それにしても、三里の奴・・・体育祭で俺にしたキスの事、忘れている?
なんだよ! 自分だって男の俺にキスしたじゃないか。
でも・・・あれは、ご褒美だって言ったな。
じゃ、キスじゃなかったのか? う~ん、考えるとキスってなんだろう。

童貞村澤、悩みは多く・・・そして、深い。





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